トラフグの産地として有名な下関、そのブランド力の3つの秘密

山口県下関はトラフグの産地として、ずば抜けた知名度を持っています。
街角アンケートをとって「ふぐで有名なところは」と聞けば、まず真っ先に下関の名前があがるでしょう。
しかし、それが単純にトラフグが沢山獲れるからだろうと思ったら大間違い。
下関のブランド力には数値では測ることができない理由があるのです。

下関の凄さは統計では見えにくい

まずトラフグの漁獲量ですが、下関がある山口県は全国ランキングで4位となっています。
知名度からすると、ちょっと意外な数字ですよね。
では県民のトラフグの消費量が多いのかといえば、そうではありません。
トラフグの消費量は全国1位の大阪が全体の6割を占めていて、山口県含め他の都道府県を圧倒しています。
山口県下関は日本で一番トラフグが獲れるところでもなければ、一番よくトラフグを食べる場所でもないのです。
そんな下関がトラフグの街として確固たるイメージを築くことができた背景には、ある歴史的理由と、山口県のブランド戦略がありました。

日本中のふぐと職人が下関に集まるようになった、歴史的理由

明治のある時期、合法的にふぐを食べることができる場所は、日本中で山口県のみでした。
日本ではふぐの強力な毒によって死ぬ人が後を絶たず、豊臣秀吉の時代から法律でふぐ食そのものが禁止されていたのです。
しかし下関のとある旅館に日本の初代総理大臣伊藤博文が宿泊した際、女将は他に出せるものがないからと、やむを得ず禁制のふぐ料理を提供しました。
伊藤はそのあまりの美味しさに、山口県だけは日本で唯一ふぐ料理を出してよいとしたのです。
それまで他府県でも庶民の間で密かにふぐ食は続けられていたのですが、
公にふぐを調理して商いができるようになったというのは歴史的快挙でした。
こうして日本中のふぐとふぐ調理師たちが山口県に集まり、ふぐ料理の技術が磨かれるようになったのです。

日本で唯一のふぐ専門の卸売市場、南風泊市場

山口県にはふぐの流通量日本一を誇る南風泊市場があります。
山口県は漁獲量でも消費量でも他府県に1位の座を譲っていますが、実は日本中のふぐが集められて出荷されていく、
ふぐ流通の拠点なのです。天然物に関していえば、日本中の8割のふぐが南風泊市場に集まるといわれています。
元々山口県には、立地に恵まれて水産物流通の要となっていた唐戸魚市場がありました。
この市場でふぐの流通も担っていたのですが、ふぐは除毒作業が必要なため、他の魚よりもずっと設備も人手もかかってきます。
やがて運び込まれてくるふぐの量が増えていき、唐戸魚市場ではその全てを捌ききれなくなっていきました。
そこでふぐの取り扱い部門を独立させて一つの魚市場としたのが、南風泊市場なのです。
充実した設備があり、ふぐのプロフェッショナルが集まる市場の噂は、さらなる人材や日本中のふぐを下関に引き寄せました。
世界で唯一のふぐ専門市場の評判は、下関のふぐブランドをより一層高めることになったのです。

ふぐではなく「ふく」、下関のブランド戦略

山口県ではふぐをふくという習慣があります。
本来は福に通じるという縁かつぎの側面が強かったのですが、現在においてはこれも下関ブランドを売り出すための戦略として用いられています。
下関は初のふぐ食解禁の地として、昔から多くのふぐ職人が集い、その知識や技術を蓄積していきました。
そして他府県でも次々とふぐが解禁されるようになると、下関で修行をした職人たちがそこで腕をふるい、
下関のふぐに関する技術は素晴らしいという評価をあげていったのです。
特にふぐの除毒作業である身欠きの知識は、命に関わることからも大変重宝されたといいます。

下関には腕のいいふぐ職人が集まっていて、
ここから出荷されたふぐは他のどの都道府県のものとも違った高級品であるという差別化。
それを分かりやすく象徴的に表したのが、下関ふくという特別な呼び方なのです。
現在では農林水産省によって、
地域ならではの農林水産物のブランドを守るためのGI制度にも「下関ふく」が登録され、その地位は確固たるものとなっています。

県民のトラフグへのこだわりが下関ブランドを作った

下関がふぐの街として知られるようになった最初のきっかけは、
旅館の女将が禁制のトラフグを当時の首相であった伊藤博文に出したことでした。
いくら他に食材がないからといっても、法を犯してまでトラフグを提供したのはなぜでしょうか。
その根底には、下関の人々が地元のトラフグの味へ抱く誇りがありました。
現在においても、下関の人たちはデータに現れる数値ではなく、
長い年月積み重ねてきたふぐ加工の技術による味こそが、下関ふくのブランドであると考えているのです。

下関以外も頑張っている、淡路島の3年トラフグ

そのブランド力で他を圧倒する下関ですが、実は今そこに迫る勢いで認知度を高めている産地があります。
それが淡路島の3年トラフグを生み出した兵庫県。
近年トラフグの養殖の技術は目覚ましい進歩を遂げ、天然ものよりも養殖のほうが美味しいというファンもいるほどです。
その中でもこの3年トラフグは、通常の養殖の期間が2年なのに対して、
たっぷりと3年かけて、大きく身の引き締まったふぐに育て上げます。
刺身で食べると、その独特の旨味が口いっぱいに広がります。
近い将来、兵庫県がトラフグの産地として山口県に並ぶ日がくるかもしれません。

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